日本デジモン学会誌 Japan Digimon Science


「リターンマッチだ!」の発動条件及び発動に係る
時系列の逆転現象によるオプションカード及び
特殊能力等のαインフォース理論


日本グリフォモニスト協会 ナクル
Japan Griffomonist Association @1NaCl




■はじめに

 デジタルモンスターカードゲームは、1999年に第1弾が発売され、一世を風靡した伝説のトレーディングカードゲームである(註1)。デジタルモンスターカードゲームには、狭義のデジタルモンスターカードゲームと、2006年から発売されたデジタルモンスターカードゲームα(註2)などがあるが、本論文では狭義のデジタルモンスターカードゲーム(以下デジカと呼ぶ)について論じるものとする。
 デジカについては、主要な展開は2005年のデジタライズブースターパック2をもって終了している(註1)。しかし、近年、デジカの再販だけでなく、新しいカードが公式にデザインされる(註3・4・5)など、デジカに対する一定の動きが認められる。また、非公式ながらにも大会の開催や、オリジナルカードの作製など、需要者の旺盛な活動も報告されている(ナクル:私信)ことからも、デジカは考察を深めるに値する分野であることが示唆されている。
 「リターンマッチだ!」(st-104・図1)は、スターターセットVer.2に封入されたカードである(註1)。発動フェイズがポイント計算フェイズであり、ポイント計算フェイズからバトルフェイズに処理を逆行させる効果を持つ比較的珍しいカードである。絶対に負けたくないときに奥の手として出し、もう一度挑戦できる(註6)カードである一方、実際のバトルでの観測例が乏しいため、その効果の処理については不明な点も多い。
 また、ハイパーコロシアムバトルより高度な戦略が要求されるアルティメットバトル(註7・8)では、フェイズを逆行させる処理がシート全体に適用されることから、今後の研究が待たれる分野である。しかし、一方で、間違ったルールでプレイしていたり、大会中の注意やレギュレーションが守れない場合、ジャッジは公平な立場で審判しペナルティを与える(あるいは失格にする)場合がある(註9)とされているのに対し、フェイズを逆行させる処理に関する知見は乏しく、正しい処理法が明確でないのが現状である。
 そこで、本論文では、「リターンマッチだ!」の効果について考察を深め、フェイズを逆行させる処理について明確な理論を示すことにより、今後の新たな戦略の開拓や、ルールの読解に際する法則性の確立に寄与することを目的とする。
図1


■環境

 考察環境は、デジカの最新の公式レギュレーションであるとされる、デジタルモンスターカードゲーム公式大会用レギュレーションハイパーコロシアムバトルレベル対応版−Ver-X,2.7−(註9)に基づくものとした。バトル形式は、ルールの基礎を固める観点から、進化・バトル・戦略などあらゆる要素が組み込まれており(註7)、アルティメットバトルルールにも基本ルールが引き継がれている(註8)、ハイパーコロシアムルールでの考察を行った。


■考察

「リターンマッチだ!」の効果の発動条件
 「リターンマッチだ!」の効果欄の記述は「◎バトルに負けた自分のデジモンをダークエリアに送らず、相手と共にもう一度バトルフェイズの初めにもどす。その後、自分の手札を全てダークエリアに送る」というものである。この項では、「リターンマッチだ!」が、自分のデジモンがバトルに負けていなければ使用できないのかについて考察する。
 「リターンマッチだ!」が、自分のデジモンがバトルに負けていなければ使用できない場合、自分のデジモンがバトルに負けていることが「リターンマッチだ!」のコスト、または条件であるということになる。しかし、一般的にデジカにおけるコストは手札やネットをダークエリアに送るものを指すことから、バトルに負けたという状態をコストに取るとは考えにくい。そのため、「リターンマッチだ!」が、自分のデジモンがバトルに負けていなければ使用できない場合、自分のデジモンがバトルに負けていることが「リターンマッチだ!」の使用にかかる条件である、ということができる。
 しかし、一般的にデジカの条件とは、条件欄に記載されているか、効果欄に「その後」「時」やそれに準ずる言葉が記載された以前に表記された内容を指す。そのため、「リターンマッチだ!」において、バトルに負けた自分のデジモンをダークエリアに送らないことと、バトルフェイズの初めに戻すことが条件づけられた関係ではない可能性がある。
 また、既存の裁定として、「クラッカー!!」(Bo-305・図2)は相手のネットの海が3枚に満たなくても使用できる。というものや、「力の渇望」(Bx-169・図3)は自分のネットの海が3枚に満たなくても使用できる。というものがある。記述が条件でなく効果である場合、一部効果が履行できない際には、解決できるものを最大限に解決することとなっているためである。また、「大罪の門」(Bx-148・図4)が、自分のデジモンをポイントゲージに送れない際にもフェイズの逆行を阻害しないことからも、「リターンマッチだ!」は自分のデジモンがバトルに負けていない際にも、解決できる効果を最大限に解決するため、発動することができるものと考えることができる。
 なお、デジカにおいては、記述の解釈を製作意図に依ることがある。「リターンマッチだ!」の製作意図としては、バトルに負けたことを前提にしていると捉えることも不自然ではない。しかし、当時はデジカ黎明期であり、バトルフェイズに処理を逆行する記述のみでは、バトルに負けたデジモンをダークエリアに送るかどうかが不明瞭となってしまう可能性があり、バトル負けの記述についてはそれを防ぐための措置であったとも考えられることから、「リターンマッチだ!」について、製作意図から記述を解釈することは好ましくないと考えられる。
図2
図3
図4

オプションカードのαインフォース理論
 既に終了しているフェイズの逆行については、「リターンマッチだ!」特有の現象ではなく、「逆襲の闘士!!」(st-817・図5)や、「大罪の門」(Bx-148)などのオプションカードや、ムーン=ミレニアモン(Bo-343・図6)などのデジモンカードなどでも観測事例のある現象である。この項では、これらのカードによってフェイズが逆行した際、バトルフェイズで1度使用されたオプションカードを再度使用することが可能なのかについて論じるものとする。
 従来の考え方として、オプションカードの効果については、特別な表記が無い限り発動はターン中1度だけであるという解釈がなされることがままあった。しかし、レギュレーションにそのような記述は無い。また、フェイズの逆行についての記述として、オプションカードなどの効果でフェイズがさかのぼった時、1回目のバトルフェイズで使用した「1枚しか置けない」「1枚しか使用できない」カードがスロットに残っていても使用は宣言できない。(註9)というものがある。この記述は、「1枚しか置けない」「1枚しか使用できない」カード以外については、1回目のバトルフェイズで使用していても使用を宣言することができると考えるに十分なものである。他にフェイズの逆行について有力な記述の観察事例は無いことから、フェイズの逆行についてこの記述を参照することが適切であると考えられる。
 この解釈により、一部のカードについて、過ぎ去った戦いが瞬間的に取り戻され、何回発動されたかはわからず、理論上、ポイント計算時に最後の一撃だけを見ることになる(註10)現象(以下αインフォース理論と呼ぶ)が発生することになると考えられる。
図5
図6

デジモンの能力のαインフォース理論
 この項では、オプションカードのαインフォース理論について、デジモンの能力について拡張解釈を行う理論について考察する。
 従来の考え方として、デジモンの能力についても、特別な表記が無い限り発動はターン中1度だけであるという解釈がなされることがままあった。しかし、デジモンの能力についても、レギュレーションにそのような記述は無い。ただし、オプションカードと違い、デジモンの能力についてはフェイズの逆行の際の裁定についての記述がそもそも存在しないと考えられていることから、拡張解釈を行う必要が出てくる。
 オプションカードの効果とデジモンの能力については、処理が等しいわけではない。しかし、概ねの手順について、オプションカードの効果とデジモンの能力は発動タイミングや解釈が似る傾向があることから、デジモンの能力に対する記述のみが存在しない今回のようなケースについて、オプションカードの記述を参考にすることは有意義であると考えられる。
 また、「◎相手の「効果や能力を計算した後の攻撃力」を半分にする」能力について、能力は攻撃力確認時に必ず発動することが明らかとなっている(註9)。これは、バトルフェイズを逆行する処理が行われた際、特別な表記が無い場合でも、能力が1ターンに2度発動されることはレギュレーションに抵触しないことを示唆している。
 以上のことから、αインフォース理論の拡大解釈が適用できるものと考えられるため、ターン中発動タイミングが2度以上訪れたデジモンの能力は、ターン中1度だけ使用できる能力である場合を除き、その度に発動することができると考えられる。



■結論

 「リターンマッチだ!」はデジモンがバトルに負けていなくても使用することができ、逆行したバトルフェイズでは、前回のバトルフェイズで使用していたオプションカードやデジモンの能力を発動することができるものと考えられた。このことから、バトルフェイズでのみ効果を発揮する、リミットがターン終了時のオプションカードや、バトル中1度だけ発動できるとされたデジモンの能力について、新たなαインフォース理論を利用した戦略の開拓が期待される。


■参考文献

註1:DIGITALMONSTER CARD GAME Complete Book / BANDAI / 2013
註2:デジモンバトルターミナル1+2&カードゲームαEvolve.1+2とあそぶほん / エンターブレイン / 2006
註3:デジタルモンスターカードゲームプレミアムバンダイシリーズ / http://www.carddass.com/dm15th/
註4:G.E.M. デジモンアドベンチャー 八神太一&アグモン・石田ヤマト&ガブモン / http://www.megahobby.jp/products/item/1221/
註5:デジモンワールドRe:Digitize Encode 1 / 集英社 / 2013
註6:デジタルモンスターカードゲーム大百科 / ケイブンシャ / 2000
註7:バンダイ公式 カードダス カードダスEX『デジタルモンスターカードゲーム』~究極進化スーパーガイドⅢ~ / 集英社 / 2001
註8:バンダイ公式 カードダス カードダスEX ジャンボカードダス『デジタルモンスターカードゲーム』~究極進化スーパーガイドⅣ~ / 集英社 / 2001
註9:デジタルモンスターカードゲーム公式大会用レギュレーションハイパーコロシアムバトルレベル対応版-Ver-X.2.7- カードの個別解説 Ver-X.2.7 カードエラッタ Ver.2.7 / 2005 / http://web.archive.org/web/20060206172438/http://www.digimon.channel.or.jp/city/card/legyu.html
註10:アルファモン / http://digimon.net/cat-digimon-dictionary/01-a/alphamon/




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